師走の街並は、普段より一層賑やかだ。
木々や建物を彩るイルミネーションが点灯し、あちこちに巨大クリスマスツリーが表れる。










そして、ここ倶楽部五稜郭も例外ではなかった。










「やぁ淑女のレディ達、待っていたよ。よく来てくれたね。」
扉を開けると、そこにはサンタの衣装を身に纏った榎本が、嬉しそうに立っている。
その笑顔に達は、少々後ずさりをしてしまったのだが……




「え…榎本さん、どうしたんですか?そんな格好して…」

「ん?これかね?サンタクロースだよ♪似合うかい?」




返答に困っている四人に、山南と容保が救いの手を差し伸べた。
「榎本さん、お客様を何時までも立たせておくのは失礼では?」
「席に案内しよう。ついて参れ。」
ほっと胸を撫で降ろしながら、四人は容保の後をついて行く。



ふと店内を見渡せば、山南や容保を含め、みな白のタキシードで身を包んでいる。
約一名ほど例外もいるが……


「驚かせて済まなかったね。榎本さんが今日はどうしても企画をしたいと、五月蝿くてね。」
「何でも師走の二廿五日は、”くりすます”と言うのだそうだな。
切支丹がきりすととやらの生誕を祝う日と聞いたが…余には理解し難い。」
「ははは……」
榎本のはしゃぎ様から、言い出した時の様子が目に浮かぶだけに、苦笑してしまう四人。





そこへ、タキシード姿の藤堂とともに、サンタ姿の沖田が現れた。
「どうやらね、くりすますってのは、特別な人と一緒に過ごす日でもあるらしいよ。」
「子供達がさんたという人から、贈り物を貰える日でもあるらしいですね。」
榎本のサンタには引いてしまったが、沖田のサンタ姿は妙に似合っている。


「沖田くんはタキシードじゃないんだ?」


「はい。」


「何で?」


「僕はこれからある人に、贈り物を届けに行かなければならないから。」


「贈り物?」


「ええ。」


そう言うや否や、沖田は席に座っていたを抱え上げる。
「ちょっと、沖田さん!?」
慌てるを物ともせず、笑いながら入り口を目指す沖田。
「それでは、贈り物はお預かりしていきますね♪」
にっこりと笑うと、そのまま店を出て行ってしまった。





「どうしよう、さんが誘拐されちゃった。」
「何処に連れて行かれたんでしょう?」
焦る
は店内を見回して何かを確認した後、山南に尋ねた。
「今日は土方さんの姿が見えないんですけど、どちらに?」
「ああ、土方君なら、今頃書類の整理に追われてるよ。」
「毎年の事だが、師走の土方は真に忙しそうだな。」



そこで顔を見合わせる、



「ってことは、沖田くんが向かったのは…」
「多分、土方君の所だと思うよ。」
「なるほど、それで贈り物…ね。」




「それより、私達もこの宴を楽しまないかい?」
そういって山南がテーブルに運ばせたのは、ドンペリだった。
「今日は特別な日だからね。私達が奢るよ。」





容保が栓を抜き、グラスへとシャンパンを注ぐ。



各々がグラスを手にしたその時、容保が身を乗り出しに囁いた。
「余が飲ませてやろうか?斎藤の様に……」
急に近くなった距離に焦り、目を逸らしたの視界が斎藤を捉えた。
「………!!」
やはり、客に口移しでシャンパンを飲ませている。
「……どうだ?」
再度容保に尋ねられ、耳まで赤く染まったは、慌てて頭を振った。
「それは残念だ。」




君は?」
「はい?」
それまで傍観していたに、山南が問い掛ける。
「試してみるかい?」
「むっ…無理です!!」
動揺するを見て、くすくすと笑う山南。



「待たせて済まなかったね。」
そう言って榎本は、の隣に座る。
君にはこれを。さぁ召し上がれ。」
手渡されたのはホットココアだった。
酒を口に出来ないへの、榎本なりの配慮だった。
「ありがとうございます。」
「いやいや、礼には及ばないよ。」
身体とともに、心もほんのり温まったような気がした。



「そういえば、そなた等の為にと思って、開店前に余が仕留めたのだ。」
カウンターに容保が合図を出すと、原田が何かを運んできた。
運ばれてきたのは、鳥の丸焼きだった。
が、この姿はどう見ても鶏というより……
「殿は、鷹狩に出かけていらっしゃったのですか?」
「たっ………鷹!?」
「そうだ。思う存分食すが良い。」
「は…………はぁ…」
鷹など食べた事のない三人は、皿の前で暫し固まるのだった。













一方。
「沖田さん、何処へ行くんですか!?」
「大丈夫ですよ。何もしませんから。」


それじゃ返答になってない!
…と心の中で突っ込むも、落とされない様必死に沖田にしがみ付く





「さあ、着きましたよ。」
そう言って降ろされたのは、称名寺だった。





「土方さん、お邪魔しま〜す♪」
「総司か!?忙しいんだから後にしてくれ。」
苛ついた声の主を物ともせず、沖田は障子を開け中へと入っていった。



「大体何でお前がここに居るんだ?店はどうし……」
驚いた土方は、言いかけた言葉を飲み込んでしまった。



っ……!?何故ここに!?」

「ふふふっ♪僕からのくりすますぷれぜんとですよ土方さん。」

「お前……」



土方の怒りの視線をかわすかの如く、沖田は身を翻し部屋を出る。
「僕は店に戻りますから、あとはお二人でどうぞ。」
そのまま沖田は障子を閉めると、去ってしまった。










暫し沈黙が続く。
やがて土方が溜息混じりに、言葉を発した。
「すまなかったな。総司の奴、勝手にこんな真似を…」
「いえ……」
正直驚きはしたが、土方に会えるのは嬉しかった。
だが、そんなことは恥かしくて、とてもじゃないが本人には言えない。





「あの…手伝いましょうか?」
「………?」
「それ……」
は先程まで土方が処理していたと思われる書類の山を指差した。
「いいのか?」
「私でお役に立つなら…ですが。」
「すまない、助かる。」



土方に促され、は土方の横に座った。



…………筈だった。
しかし、気が付けば土方はの後ろに居て、
背後から包みこむような形で座ると、そのままを腕の中に閉じこめる。


「土方さん……っ」


「少しの間でいい。」


「………!?」
「このままでいてくれないか?」





振り向く事も出来ず、土方の表情を伺う事はできない。
だがいつもとは違う、切羽詰った声色に、は首を横に振る事はできなかった。
「………………分かり…ました。」









外は何時の間にか雪が降り始め、街中を白く彩っていた。












戻る ・ 次へ